日本語だと「Googleが消える日」と訳されているのですが、原著では"Life After Google The Fall of Big Data and the Rise of the Blockchain Economy"になっています。2年前ぐらいに読んだのにメモを公開してませんでした。
アメリカの経済学者および未来学者。1939年ニューヨーク州生まれ。ハーバード大学卒業後、リチャード・ニクソン、ネルソン・ロックフェラーなどのスピーチライターを経て、サプライサイド(供給重視)経済学の研究者へ転身する。転身後の1981年に刊行した『富と貧困』斎藤精一郎訳(日本放送出版協会)がベストセラーとなる。1993年にデジタル携帯電話の登場を予言した『テレビの消える日』森泉淳訳(講談社)は、スティーブ・ジョブスに大きな影響を与えたといわれる。2000年に刊行した『テレコズム』葛西重夫訳(小社刊)では、「通信網の帯域幅は6ヶ月で2倍に広がる」というギルダーの法則を提唱した。Youtubeもあったので貼り付けておきますw
著者はハーバードで経済学者をやったり、ドナルドレーガンのスピーチライターを務めたり、他分野で活躍されている人っぽいです。特に、ブロックチェーンやビットコインがなぜ価値を持つのかに関して正確に描写できている記事を見たことがないのですが、本書では見事に価値循環を指摘して解説しています。ただ、それでも二年前に読んだときは、一般(文系)向けの内容にも関わらず、内容がピンと入ってこなかったんですよね。腑におちない感じがありました。今も十二分に理解できるかは不明ですが、素人なりの解説をしてみようと思います。
- フリー〈無料〉からお金を生み出す新戦略で描かれているように、現代のビジネスモデルはフリーにまつわるビジネスモデルが描かれている。Googleも例外ではない。Googleは全てのコンテンツと情報を"無料"で提供するという大胆な決断をした。経済用語でいうところの「コモンズ」、つまり誰もが利用できる共有財とし、インターネットのパイオニア的存在であるスチュアート・ブランドの「情報はフリーを求める」というスローガンにグーグルは応えた。ジェレミー・リフキンは「限界費用ゼロ社会」の到来を予言したわけだが、彼によると"新たな社会では検索やソフトウェア、ニュースやエネルギーなど、財やサービスを追加で生み出す費用が「ゼロ」になる。世界のあらゆる機器がモノやIoTに組み込まれるので、ネットワーク効果によってさらなる豊かさを享受できるようになる。"わけだ。しかしながら、価格が無料になるというのはバーター取引による利益である。金銭で対価を払っているわけではなく、注目すること、すなわち、時間で支払っているわけだ。
- Googleは自社の広告の優位性が認められ出稿が急速に増えた段階で、Google analyticsを無料で公開した。これによって年間広告収入はあっという間に100億ドルも増えたのだ。社員食堂も、料金を徴収しない方が効率よく運営できるという事実を元に展開している。
- Burning Man at Google: a cultural infrastructure for new media productionに原文があるが、Googleの組織文化はBurning Manの影響をかなり受けている。
- Googleはセキュリティ問題をコミュニティー全体の問題と捉えている。
- Googleの創業初期にセルゲイ・ブリンは「価格がゼロの戦略をどうやって変えるか?」という問いに対して、最終的に「私たちが市場を独占する」と公言した。2014年には、ジェレミー・リフキンをグーグルの社内講演会に招き、「限界費用ゼロ社会」がいかに「Googleの世界」であるかを語った。ただ、実際には「ゼロ」になることはなく、「注目すること」で支払っている。すなわち、「時間で支払っている」ことになる。どんなんいものが豊かになっても時間の希少性は変わらないのだ。
- Move Fast and Break Thingsによると、Googleはユーザー数が数十億人に達するWeb platform上位6サービスのうち5つのサービス、ネット上のビジネス機能14項目のうち13項目を保有しているにも関わらず、エンドユーザーからの収入は5%にも満たない。企業理念が「顧客第一主義」で始まるにも関わらず、Googleにはエンドユーザーがほぼ存在しない。ここが、Googleが積極的に有料サービスを提供してきたAmazonと決定的に違うところなのだ。
- 2015年のおわりにAppleのiPhoneへの広告ブロッカーの導入
- 2017年時点で買い物の検索は、Amazonへ移行している(Amazon 52%, Google 26%)
- 2017年時点におけるCloud shareではAWSが57%、GCPが16%と有料サービスにおけるAmazonの優位性が明らかになった
- これらを踏まえて、サンダー・ピチャイが方針転換を行い、モバイルファースト主義からAIファーストに移行した
- 音声アクセスによるAIに向かうと、Googleがこれまで築き上げてきた検索広告の優位性がほぼ無効となってしまう。なぜなら、声を出して検索する行為と丁寧な文章を入力して多数の候補の中から検索したい内容を探す行為では、全く異なるからだ。これはコンテンツの供給が減少し、広告を増やさなければいけなくなるという死のスパイラルに陥ったラジオの世界を彷彿させる時代に逆行する戦略になる。
- Googleの後の世界は基本的にCryptocosmの世界になる
- Googleの世界では、インターネットの重要なルールはcomunication firstである。あらゆるものがFreeに複製されて、移動され、加工される世界である。インターネットは複製でコミュニケーションする巨大な非同期の模写機である。情報経済において全ての財産権を規制するのは、複製王たちであり、その代表がGoogleである。
- Googleの世界システムにおいて、セキュリティーはデバイスやその所有者の財産ではなく、トップからあてがわれるネットワーク機能である。そのため、すべてのものがGoogle本社に集約され、まるでユーザーをランダム選択するかのように扱うことで、スピードや効率性を実現する。これが検索エンジンの背後にある数学モデルの本質である。
- Cryptocosmには10のルールがある。
- Security first
- 集中化は安全ではない
- Safety last
- 無料のものは何もない
- 時間は費用の最終的指標である
- 安定した通貨は人間に威厳と統制力を与える
- 生物学的非対称性を模した「非対称性の法則」
- 秘密鍵のルール
- 秘密鍵は政府やGoogleではなく個人が持つ
- すべての秘密鍵とその公開鍵の背後には人間の通訳が存在する
- Brave - cookieの弊害を取り除くととともに、全てをトプダウンで決められるインターネットの仕組みを変えている。しかも、開発資金を仮想通貨のトークンセールでいち早く調達している。従来のデジタル広告エコシステムの中心に存在しているGoogleとは対照的にBATでは本来受け取るはずの利益を手にしていないユーザーやパブリッシャーに権限を与える仕組みを目指している。
- 20世紀を代表する考え方として、マルコフ連鎖がある。Googleはマルコフ連鎖を積極的に取り入れ、アルゴリズム「ページランク」をインターネット全体でペタバイトレベルのデータを網羅している。Web全体をマルコフ連鎖と捉えることで、特定のページがユーザーを満足させる確率を把握できるようになっている。同様に、ヘッジファンドのルネッサンスグループはマルコフ連鎖を取り入れて、メダリオンファンドで20年に渡って年率約40%の利益を上げている。
経済学者らしく、マクロで見ると「Webにあるデータが実はGoogleとFacebookによって牛耳られている構造から、もともとのインターネットの構想であったpeer-to-peerな世界にWebコンテンツが保存・管理されるべきな構造に移行しつつある」、つまりは、「Googleが20年かけて築き上げてきた競争優位性を脅かすレベルでBusiness modelが変わるかもしれない」点を思想を含む側面や情報経済の法則から語っています。Cloudがなぜ生まれたかはハードウェアの限界点を超えるべくして生まれてますし、この領域はTechnologyのBackgroundなしに戦略を立てられない職人芸だと思います。実際に、プロ経営者みたいな既存産業に当てはまるフレームワークだけを用いて会社経営するのではなく、テクノロジーの発展段階を踏まえてMoonshotを数年単位で打ち上げながら時価総額を倍倍にしていく世界で、完全に安宅さんが指摘するNew economyに突入した感じです。