2017年9月3日日曜日

幸福の資本論 橘玲



社会学の概念を用いて日本社会の構造的特徴を描写した書籍。社会学者でいうと、ナン・リンのソーシャルキャピタルの概念に近い点もあり。




幸福の「資本」論―――あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」



自分なりに要約すると、以下になる感じ。


  • 人生は「金融資産」「人的資本」「社会資本」の三つで構成されており、この配分ゲームが人生と言える
  • なぜなら、幸福の条件である「自由」「自己実現」「共同体=絆」は、それぞれの資本のインフラに依存しているからである
  • この三つを同時に満たす「超充」になることは不可能である。それは、「お金=貨幣空間」と「共同体=政治空間」の道徳(=支配構造の基礎)が対立するからである。



それ以外にも含蓄のある指摘が数多く並びます。
  • 自己実現が大事」という共同幻想が流布している世の中では、まず、知識社会化に対応することが優先
  • 伽藍(がらん=ネガティブ評価の空間)は閉鎖系、それゆえ、ゲームのデフォルトが「できるだけ目立たず、匿名性の鎧を身にまとって悪評を避けること」が生き延びる最適戦略になる。メンバーシップ型の組織である日系の企業は、新卒一括採用と年功序列・終身雇用によってこれを成立させている。
  • バザール(=ポジティブ評価の空間)は開放系、それゆえ、「できるだけ目立って、たくさんのよい評判を獲得すること」が生き延びる最適戦略になる。これは、同年代の男や女のライバルと自分を「差別化」する、グループ内での「キャラづくり」をする本能的行動と適合している。
  • 政治空間(=権力ゲーム/武士道)と貨幣空間(=お金儲けゲーム/商人道)は根本的な倫理が異なる。統治の倫理と市場の倫理は異質な世界である。
  • 日本の社会は、ムラ的な間人主義に最適化され、そこから「やりがい」を生み出すようになっているが、「間人の幸福=伽藍のなかでのやりがい」よりも自己決定権を持つ「個人の幸福」の価値観が重視される時代になっている。c.f.間人=共同体の中の自分/個人=かけがいのない自分


    いやー彼の日本社会に対する洞察とその適切な表現にはいつも感銘を受けます。我々ゆとり世代が抱える社会への心理的閉塞感や停滞感の50%ぐらいがこれで説明可能なんじゃないでしょうか。


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